〜making an eyelid having a fold 〜二重をつくる一重の記録

金沢大学修士2年物質化学専攻。#有機化学 #国際協力 #ソーシャルビジネス #双極性障害 #休学 #パラレルキャリア

論文要約No.4 光レドックス触媒を用いたスチレンの[4+2]環化付加反応

Visible-Light-Mediated [4+2] Cycloaddition of Styrenes: Synthesis of Tetralin Derivatives

著者:Leifeng Wang, Fengjin Wu, Jiean Chen, David A. Nicewicz,* and Yong Huang*

Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 6896-6900

DOI: 10.1002/anie.201702940(オープンアクセス)

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✻Abstract

・可視光レドックス触媒を利用したスチレンの[4+2]環化反応を報告。

・2つの電気特性や立体特性が異なるスチレンを用いて高収率、高選択性で反応。

・本反応で簡易に入手可能なスチレンからの多置換テトラリン骨格の合成を達成。

・三環式、四環式テトラリン誘導体の高収率、高エナンチオ選択的な合成に成功。

 

✻Introduction

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◼テトラリンの従来の合成

・テトラリン- 天然化合物、医薬品、農薬などに幅広く存在する骨格。

・テトラリンの従来の合成法1(図左)

アリール誘導体からの金属触媒による環化反応

⇒出発物質の事前の官能基化が必要で大変!!

・テトラリンの従来の合成法2(図右)

ナフタレンの接触水素化またはバーチ還元

⇒アトムエコノミー的観点で金属を用いる点が改善したいところ!

 

◼可視光レドックス触媒

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可視光によりラジカルを発生し、酸化剤としても還元剤としても機能できる。

ケムステの記事参照)

 

◼著者らの先行研究

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・Fukuzumiアクリジニウム塩を用いた可視光フォトレドックス触媒を用いて、ヒドロ脱カルボキシレーションを報告。(JACS, 2015137, 11340-11348)

上記論文では光レドックス触媒は酸化剤として機能している。

 

◼This work

水素移動助触媒(HAT)を利用。

異なる2つのスチレンを用いた[4+2]環化付加によるテトラリン誘導体の合成。

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*注意:[4+2]環化付加に加えて、もう一つの経路として[2+2]環化付加が存在。

(Chem. Sci. 2013, 4, 2635-2629)

 

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✻Results and Discussion

◼触媒の検討

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・基質として4-methoxystyrene、HATとしてPhSSPhを用いることで[4+2]環化付加を発見(entry 1)

・ジスルフィドなしの条件では[2+2]のみが進行。

・溶媒をAcetonitrileからdichloroethaneに変えると選択性が逆転。

⇒無極性溶媒ではカチオンラジカルの寿命が短くなり、ラジカルの還元の前に速やかに求電子環化が起こっている?

・アクリジニウムカウンターイオンは生成物の収率に大きくは影響しない。(entry 3 and entry 2 vs 4 )

・青色光のない条件では反応は進行しなかった。

 

◼反応条件の検討

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・本反応では2つの異なるスチレンを用いることで3つのダイマーが生成(A-A, A-B, B-B)

・酸化がしづらく、求核性が高いα-メチルスチレン4を4-メトキシスチレン 1のカチオンラジカルのトラップとして利用。

14は円滑に反応し、目的生成物5を29%, 1:1 d.r.比で与え、副生成物3を52%で与えた。

・スチレンは遷移状態でジエノフィルとして働いているため、ラジカル環化とFriedel-Crafts型の求電子閉環が考えられる。

・ホモ体の二量化生成を防ぐために14の溶液(0.1M-1.0M)にゆっくり滴下(10h)

⇒ホモ体に比べてクロス付加体の選択性が上昇。(5が60%, d.r.=1:1, 3が痕跡量)

・反応時間を2時間にすることで5の収率が向上。(71%, d.r.=72%)

・PS-AまたはPS-Cを用いると収率が減少(それぞれ42%, 48%)

・アクリジニウム触媒以外の触媒では反応はほとんど進行しなかった。

 

◼反応基質の検討(α-置換スチレン)

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<補足>

・1,1-ジフェニルエチレン(8)の収率は若干低め。求核性の低さが要因か?

 d.r.=2:1でトランス体が多い。HATプロセス時の立体効果が影響?( 10も同様)

・ethyl vinyl etherも2π化合物として適応可能であった。

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◼反応基質の検討(α-無置換スチレン)

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・α無置換スチレンはジエンとジエノフィルの立体が同じになるために区別がつかず、難しい。

⇒筆者らは電気化学特性の違いを利用。

例えば、メトキシスチレン1は良好なカチオンラジカル前駆体として働き、電子豊富でないスチレン(ジエノフィル)と反応する。

Table2で1がジエンとして機能していたことと同様に、Table3でも1はジエンとして働き、電気的に中性のスチレンや電気欠損のあるスチレンをジエノフィルとして良好に反応。

 

・o-メチルスチレンをジエノフィルとして用いた時

カチオン性とラジカル性の閉環が競合し、2つの異性体が生成。

 

・β-メチルスチレンをジエノフィルとして用いた時

3置換テトラリンが生成。この時、β-メチルスチレンのtrans 体かcis体のどちらを使ったかは関係なく、同じ生成物29を与える。(cis体の方が65%と優先)

⇒環化は段階的に進行し、閉環時に結合の回転が起こることが示唆された。

 

◼テトラリン骨格ワンステップ合成への応用

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・テトラヒドロナフタレンをジエノフィルとして利用

⇒o-メトキシスチレン , p-メトキシスチレン,とそれぞれ6/6/6/6環(30,31)を生成

・インデンをジエノフィルとして利用

⇒p-メトキシスチレン, o-メトキシスチレンとそれぞれ6/6/5/6環(32,33)を生成。

・環外オレフィンとの反応では6/6/6と6/6/7の三環式骨格が生成。(cis:trans=1:1)

 

重水素ラベリング実験

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・完璧に重水素化されたα-メチルスチレンを用いて反応

 - ベンジル位(図の赤文字)の重水素の割合が35%となった。

⇒HATプロセスが分子内だけでなく分子間でも起こっている。

・反応器にD2Oを加えて再度ラベリング実験。

 - ベンジル位の水素の割合が14%となった。

⇒分子間水素移動は遅く、その他の外部からの水素移動と競合する。

 

◼反応機構

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①青色光照射下、アクリジニウム触媒がより電子リッチなスチレンを酸化(光誘起電子移動PET)

②アクリジニウムラジカルMes-Acr・とカチオンラジカルAが生成。

③フェニルチオラジカルによるMes-Acr・の再酸化がおき、共触媒のPhSSPhが開裂。

④中間体Aがもう一つのスチレンと反応してラジカルカチオンBを生成。

⑤Bは2つの環下メカニズムで閉環(求電子的機構とラジカル的機構)

 *α置換ジエノフィルでない時はカチオニックな閉環が優先。

 *α置換ジエノフィルでは、カチオン中心が安定化され反応性は乏しくなり、ラジカル機構が優先。

⑥それぞれの経路で中間体C,C’が生成。

⑦脱プロトン化と水素移動がチオフェノラートによって起こる。再芳香族化が駆動力。

 

✻Conclusion

・可視光レドックス触媒を用いて容易に入手可能なスチレンからテトラリン誘導体を合成。

・ジスルフィド助触媒はスチレン間の化学選択性を[2+2]から[4+2]環化に転換する。

・反応機構から、ラジカル機構とカチオン性機構の2種類の環化経路が示唆された。