〜making an eyelid having a fold 〜二重をつくる一重の記録

金沢大学修士2年物質化学専攻。#有機化学 #国際協力 #ソーシャルビジネス #双極性障害 #休学 #パラレルキャリア

論文要約No2. -ホスト-ゲスト化学-『有機ケージで不安定な白リンを捕捉!』

Trapping White Phosphorus within a Purely Organic Molecular Container Produced by Imine Condensation

雑誌:Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 14545-14550

DOI: 10.1002/anie.201708246  
(オープンアクセス)

著者:Tianyu Jiao+, Liang Chen+, Dong Yang, Xin Li, Guangcheng Wu, Pingmei Zeng, Ankun Zhou, Qi Yin, Yuanjiang Pan, Biao Wu, Xin Hong, Xueqian Kong, Vincent M. Lynch, Jonathan L. Sessler, and Hao Li*

 

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✢Abstract

3つのトリホルミル前駆体とトリアミノリンカーの濃縮状態において3つの四面体有機ケージが得られた。

多くのイミン結合形成が起きたにも関わらず、対応するケージは例外なく高収率で得られた。理論と実験結果の両方から、ケージ骨格内のCH-π相互作用が凝集と定量的な合成収率に大きな役割を示すことが示された。3つのケージは高い熱力学的、速度論的安定性を示した。さまざまな小さな中性ゲスト分子をケージ形成反応のテンプレートとして利用とした。これらのゲストの中で酸素と本来反応性のある白リン(P4)はケージ内に捕捉された時その反応性は減退した。

 

✢Introduction

<有機ケージ化合物>

分子コンテナやカプセルは不安定な化学物質を捕捉し安定化する。

この方法での安定化する化合物

→特殊なDiels-Alder生成物や歪んだ炭化水素、不安定な反応中間体、爆発物など。

2009年Nitsckeら- 無機-有機混合化合物ケージを用いて白リン(P4)の安定化を報告。

2017年Wuら – アニオン性のリン酸を用いたケージの利用を報告。

フラーレンカーボンナノチューブのような多孔質配位ネットワークは固体状態でのP4トラップに利用される。

一方、イミン縮合などの共有結合によって組み合わされた純粋な有機化合物によるケージがP4を安定化さする報告は錯体化学ベースのものにくらべて圧倒的に少ない。

配位可能な金属リンカーや幾何学を制御できるアニオンベースに比べて純粋な有機ケージの高収率の合成と形、サイズの制御はとてもチャレンジングである。

数多くのイミン縮合のような動的共有結合形成を介する、ケージ機能を有する有機化合物があるにも関わらず、均質条件でゲスト分子を認識したりや反応性を制御できるイミンベースのホスト分子は稀である。

イミンベースケージのキャビティーには通常有機溶媒が入り、ホストゲスト結合を阻害することが知られている。

 

<This Work>

3つのホルミル前駆体とtris(2-aminoethyl)amine(TREN)の縮合によって得られた有機化合物四面体カゴの合成と理論的なデザインを報告する。

高収率性は事前にねじれた構造のトリホルミル基のためであり、カゴ骨格内でCH-π相互作用による安定化を許容する。

イミンベースのカゴ分子はイミン変換や分解にたいして著しい安定性を示した。

これらの四面体のうち2つはトルエン中でも分子コンテナとして機能した。

それらは白リンを含む様々な小さなゲスト分子を収容することができた。

カプセル化によって束縛されたP4は溶液中でも固体中でも安定化し、数ヶ月間崩壊や酸化などが見られず保持された。

 

✢Results and Discussion

1.合成

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・3つの剛直なトリホルミル誘導体La,Lb,Lcはトリアミノリンカー(TREN,A1)と1:1,CHCl3中、室温で反応させた。(Scheme. 1)

・イミン縮合形成によってLa4A14,Lb4A14,Lc4A14がそれぞれ90%, ≥99%, ≥99%で得られた。

1HNMRとMassスペクトルで分析を行った。(Figure.1)

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2.構造調査

La4A14,Lb4A14,Lc4A14の単結晶が得られた。

X線構造解析からLa,Lb,Lcのトリホルミル残基は固体状態でねじれ構造を取ることが明らかとなった。

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La4A14の場合は51.5°。

 Lb4A14,Lc4A14の場合は隣り合うフェニル環の二面角が平均70.8°、66.9°。

 Lb4A14,Lc4A14の方が二面角は大きかった。

 →大きなねじれはエチル基、メチル基による立体障害による。

・すべてのケージでフェニルプロトンのうちの一つは隣あうフェニル基の方を向いている。

 H中心距離はおよそLa4A14,Lb4A14,Lc4A14でそれぞれ2.82Å、2.71Å、2.70Åであった。

 →エネルギー的に有利なCH-π相互作用によって安定化している。

 →CH-π相互作用の存在はFigure1b,cの溶液中での1HNMRの結果からも支持。

Lb4A14,Lc4A14に見られるプロトンa’の共鳴は出発物質よりも著しく高磁場シフトしている。

 →フェニル環の上に位置しているため核遮蔽環境にある。

 

 

3. CH-π相互作用に対する調査

Lb4A14,Lc4A14La4A14よりも収率が高いことからCH-π相互作用が自己集合のドライビングフォースになっていると仮定。以下はその検討。

 

アルデヒド前駆体の制御実験>

LdLcの2つのトリホルミル前駆体を用いた合成を行った。(Scheme 2)

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LdLeA1 をCDCl3中1:1で反応させると、Ld4A14Le4A14とはならず、特定不能なオリゴマーが生成。

トリアルデヒドLdの平面はCH-π相互作用を補助する”preorganize”なねじれ構造をとれない。

→四面体ケージ形状を取ることができなかった。

Leは2つのフッ素原子を含み、CH-π相互作用の安定化の形成を不可能にする。

→四面体ケージの形状を取ることができなかった。

 

<DFT計算>(Figure 3)

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・四面体ケージ内での分子内CH-π相互作用の安定化効果を証明。

 ・結晶構造のLa4A14, Lb4A14,Lc4A14に対してm06-2x /6-311+g(d,P)を用いて計算を行った。

 CH-π相互作用による安定化エネルギーはそれぞれ

La4A14 ・・ -21.1kcalmol-1

Lb4A14 ・・ -29.3 kcalmol-1

Lc4A14 ・・ -31.1 kcalmol-1

 合成が高い収率で行われることに対して、

CH-π相互作用が安定化への寄与の一つであることを示した。

 

4. ケージ分子の安定性

<放置実験>

1HNMRでCDCl3中、1mMの溶液を7日以上モニターしたが、分解はほとんど見られなかった。

・XRDの分析からCH2Cl中で生成した結晶中においてもポリマー化や分解は見られなかった。

→この固体を再びCDCl3に溶かし、1HNMRで調査しても対応するスペクトルピークが回復した。

→La4A14, Lb4A14,Lc4A14は溶液中、固体中で安定である。

 

<熱力学的安定性の調査>

ケージ内のイミンリンカーの希釈や水にさらすことによる動向を調査。

La4A14の4mMのCDCl3溶液を1mMに希釈。

 →1HNMRにおいてフリーなLaが検知されなかったことからケージが分解していないことを確認。

・3:1でベンズアルデヒド(18.5M)とA1(6.1mM)mをCDCl3中で混合

 →アルデヒドとイミン結合形成体がだいたい1:7の割合で平衡に達した。

  (La4A14形成においては反応残基であるアルデヒドはほとんどみられなかった。)

La4A14, Lb4A14,Lc4A14はCDCl3溶液にD2O加えた後、数週間安定であった。

Laは水で飽和しているCDCl3溶液中においてもA1と縮合することが見られた。

 →ケージ骨格はイミンリンカーの加水分解安定性を高める。

 

<速度論的安定性の調査>

La4A14, Lb4A14を2日間50℃の熱を加えた。

 →ハイブリッドケージの生成は1HNMRとESI-MSからは見られなかった。

LaLbA1 を1:1:2の比率で混合すると5つの四面体ケージが生成した。

La4A14,,La3Lb1A14, La2Lb2A14, La1Lb3A14, Lb4A14)(Figure1e)

La4A14Lb4A14を混合

 →それぞれを構成するアルデヒド誘導体、アミン誘導体のイミン結合の交換は起きなかった。

 →すべての化合物の交換に3つのイミン結合の開裂が必要なことから高いエネルギー障壁が必要。

LaLbとbis(2-aminoethyl)amine(A2)を混合

 →三角格子La2A23Lb2A23は同様の条件下でハイブリッド格子LaLbA23を生成した。

  三角形構造は2つのイミンリンカーしか結合しないため、四面体構造と違い交換が起きた。

 

5.ホスト分子機能性 

<背景>

La4A14, Lb4A14,Lc4A14の高い安定性からホスト分子としての利用を以下の操作で検討した。

・有機化合物でできた系の固体状態での気体吸着やCDCl3中での小さなゲスト分子の認識は今まで行われていない。特にCDCl3中においては、溶媒の濃度が推定のゲスト分子の濃度を大きく上回り、競争的な阻害剤としてケージキャビティーを占有してしまうことが知られている。

 

<溶媒テンプレート実験>

・[D8]トルエン中でLbLcA1と1:1で混合したとき、特定不可能なオリゴマー体が得られた。

Laでは[D8]トルエンへの溶解性が悪く、類似実験はできなかった。)

・Lb4A14,Lc4A14の非形成は[D8]トルエンがテンプレートやゲスト分子として大きすぎることを示唆する。

→[D8]トルエンはCDCl3以外の溶媒がケージ形成のテンプレートになるかを調査する理想的な溶媒となる。

・THF,CCl4、CHCl、シクロヘキサン、ベンゼン、ノルボルネンをテンプレート溶媒として調査

Lb/Lc(1mM)の[D8]トルエン溶液中に溶媒を0.25-0.5mM加え、1HNMR、massスペクトルでケージの形成をモニター。

→すべてのゲストテンプレートでケージ形成が見られた。

 

<白リンのゲスト適応実験>

・四面体形をとり、反応性が高い物資である白リン(P4)がテンプレートとなるか調査した。

・2mM の白リンを[D8]トルエン中でそれぞれ1mMのLbA1と共に加え、≤323Kで8時間加熱した。

 →P4Lb4A14錯体の形成が1HNMR,31PNMR,massスペクトルから確認された。

 P4Lb4A14の生成は75%と見積もられた。

・20mMのCHCl3を[D8]トルエン中に加えてもゲスト交換の動向は見られなかった。

 →P4は良いテンプレートとなっており、CHCl3のそれよりキャビティー内で高い親和性を示した。

・CHCl3を460M加えると、P4が徐々にリリースされることが1HNMRより示唆された。

・[D8]トルエン中でP4Lb4A14はCDCl3Lb4A14よりも安定であると結論づけられた。

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・アセトニトリルの蒸気拡散法でP4Lb4A14の単結晶が得られた。(Figure4b)

・固体状態P4Lb4A14でのP-P結合距離は2.171-2.179Åであり、通常のP4(2.18Å-2.22Å)よりも短かった。

・P4Lb4A14のP原子は隣あうLb内にあるフェニル部位の方向を向いていた。

・この配位は最近のWuらによる報告と異なっていた。

 →Wuらの報告ではP原子は四面体の頂点報告に向いていいた。

 P4Lb4A14内のP中心距離は3.266-3.444Å。Wuらの報告の3.53-3.64Åよりも明らかに小さかった。

・より近接したコンタクトはP原子と対応するケージ内のフェニル環の軌道の重なりが大きいことを示唆。

 →CHCl3よりも高い結合親和性を示す要因となっている。

 

 

・空気にさらしても、P4Lb4A14錯体は安定であった。

(P4Lb4A141Hと13PNMRは数日間変換しなかった。)

・固体状態Lb4A14ケージ内P4の安定性を決定することを試みた。

 →P4Lb4A14錯体の溶媒を飛ばすと50%収量で白色粉末が得られた(Figure. 4a)

31PNMRよりLb4A14ケージ内のP4分子は空気中に数ヶ月間さらしても不活性性を示すことが分かった。(Figure. 4d)

・XRD調査はP4Lb4A14骨格がほとんど変化ないことを指し示した。

31PNMRより粉末をCDCl3に溶かし、溶媒を飛ばすとP4はケージ内からリリースし、即座に酸化または崩壊することが示唆された。

 →Lb4A14でトラップしているとき、ホストゲスト効果によりP4は安定化されている。

 

✢Conclusion

イミン縮合によって3つのケージ分子を高収率で得た。
トリホルミル配位子の“preorganize”ねじれコンフォメーションがケージ内の分子内 CH-π相互作用を優位にし、高収率を可能とした。四面体ケージは際立って安定性が高かったため、ホスト分子としての可能性を模索した。ゲスト分子となり得ないトルエン中で基質をテンプレートとして用いた時、Lb4A14Lc4A14のケージはゲスト分子の補足能力を有した。ゲスト分子として白リンを用いたところ、その錯体は溶液中と固体状態で際立った安定性を有した。四面体ケージLb4A14は有機化合物分子でかつ、共有結合でできた中性ビルディングブロックである。このような分子がP4を捕捉し、安定化する系の例は初めてである。この系では格子捕捉や金属による配位、アニオン錯体のような速度論的な障壁を有するものとは異なり、不安定性もなく安定な錯体であった。
 本論文で議論された四面体ケージは様々な反応活性種や反応中間体、高エネルギー分子に対してホストとしての役割を果たすであろう。