〜making an eyelid having a fold 〜二重をつくる一重の記録

金沢大学修士2年物質化学専攻。#有機化学 #国際協力 #ソーシャルビジネス #双極性障害 #休学 #パラレルキャリア

論文要約No1. 『結晶中でねじれ分子内電荷移動”TICT”発光を実現!!』

Solid-State Emission of the Anthracene-o-Carborane Dyad from the Twisted-Intramolecular Charge Transfer in the Crystalline State

著者:Hirofumi Naito, Kenta Nishino, Yasuhiro Morisaki, Kazuo Tanaka, and Yoshiki Chujo*

雑誌:Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 254-259   DOI: 10.1002/anie.201609656

 (Open Access) 

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✢Abstract

・結晶状態におけるアントラセン-o-カルボランの発光プロセスを調査。

・AIEE,CIEE特性(Aggregation and Crystallization Induced Emission Enhancement)が分子内の電荷移動(ICT)を通じて得られた。

・溶液中でLE(locally excited)とICT(intramoleculer charge transfer)の2つの発光プロセスが見られた。

・メカニズム調査と計算からICTからなる発光バンドがTICT発光に起因していることが示された。

・o-カルボランのコンパクトな球状の形が込みいった状態でも回転を可能にしたため、結晶状態でもTICT発光が観測された。

 

 ✢Introduction

<TICT発光とは?>

 

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励起状態で電子ドナーとアクセプターを架橋している結合がねじれ、そのねじれた状態で電荷が移動し発光がみられること。

TICTを発現する分子は1つのスペクトルにLEとTICTからなる2つの発光が同時にみられる。

LE発光とTICT発光のそれぞれの環境要因に対する挙動の違いを生かしてさまざまな光学センサーの開発が行われている。

 

しかしながら固体状態でTICT発光を示す分子はほとんど知られていない。

⟹ 濃度消光や構造の制約でねじれが生まれないため。

光学電子デバイスに対するTICTメカニズムの応用は未発達である。

 

<o-カルボラン(C2H12B10)とは?>

ケージ内に2つの隣接炭素基を含む20面体のボロンクラスター。

o-カルボラン誘導体のC1位にπ共役系を架橋したユニットはAIE特性を示す。

 π共役系からのC1-C2結合への分子内電荷移動によって溶液中では発光が消光。

 一方で、凝集状態でC1-C2結合振動を凍結させることで発光は回復。

 ⟹o-カルボランはAIE誘導ビルディングブロックと見なせる。

多くの研究グループがπ共役ユニットとo-カルボランのC1-C2結合の電子準位とコンフォメーションの関係性を見出してきた。

 

<先行研究> 

◼︎Foxらのグループ*1

π共役面がo-カルボランのC1-C2結合からねじれているとき、分子内電荷移動は平面のときよりも効率的であることを見出した。

⟹LEからICTへの発光挙動はπ共役ユニットのコンフォメーションの変化によって制御可能

 

◼︎筆者らの以前の研究*2

ピレン-o-カルボランはAIEベースの固体状態発光とともに、以下の2つの発光がみられた。

溶液状態で、TICTからなる発光バンドが得られた。

結晶状態では、ICTからなる強い発光がみられた。

しかしながら、

結晶性の低さのために構造情報が得られず、個体状態での発光の詳細なメカニズムが不明瞭であった。

 

<This work>

アントラセン-o-カルボランの結晶状態でのTICT発光を報告。

LE、TICTの準位からなる2つの発光を溶液中で確認。

TICT発光バンドに起因するAIEEとCIEEの両方の特性がみられた。

X線単結晶構造解析とコンピュータ計算により結晶状態においてもカルボラン部分の回転が起きることが示唆され、これがCIEE挙動を導いていることが判明。

o-カルボラン誘導体の中で結晶構造内中TICT発光を確認した初めての論文となった!

 

✢Results and Discussion

<合成>

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X線構造解析>

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・アントラセンとo-カルボラン部位の間の二面角は-13.6°

⟹アントラセン部位はo-カルボラン部位のC-C結合に対してほぼ共平面に配置される

・結晶パッキング構造から、C-Hとアントラセン環との距離は3.2Å、アントラセンの分子間距離は7.9Å。

⟹CH-π相互作用が結晶パッキング状で形成している反面、アントラセンのπ-π相互作用は弱い。

嵩高い20面体o-カルボランクラスターのため結晶構造中分子間相互作用は弱い。

 

<光学特性>

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◼︎THF中、貧溶媒中(凝集状態)での吸収スペクトル(Figure.2a)

THF中では400nm付近にアントラセンのπ-π*遷移に起因するピークを観測。

貧溶媒中では、レッドシフトして、THF中より若干ブロードした。

CHCl3,THF.DMF、アセトニトリルでもほとんど吸収は変わらず。

吸収スペクトルに大きな変化はないことから、極性の変化に対して基底状態の電子的構造は保持されている。

 

◼︎さまざまな溶媒でのPLスペクトル(Figure.2b)

溶液中2つの発光が観測された。

600nm付近の蛍光バンドは溶媒の極性が上昇することでレッドシフトした。

450nm付近の蛍光バンドは溶媒に依存せず、ほとんど変化しなかった。

Lippert-Metagaプロット(縦軸ストークシフト、横軸溶媒の極性)から、

600nm付近の蛍光のプロットの傾きは大きい。

450nm付近の蛍光プロットの傾きはほとんどゼロ

⟹450nmの蛍光バンドはアントラセンのLE準位、600nmの蛍光バンドは分子全体のICT準位に起因。

本研究の蛍光分子はLE準位の発光から始まる

⟹これはアントラセン部位の回転におけるエネルギー障壁は小さいことを示している。

さまざまな温度でのPLスペクトルから、LE準位とICT準位のエネルギーの違いは0.72kcalmol-1と見積もられた。

励起状態でのICTからLE準位への遷移が室温でも可能であることを示唆。

 

◼︎凝集状態、結晶状態ではICT発光の強度が著しく増加した(Figure. .2c)

THF溶液中では弱い発光。(ΦPL=0.02)

凝集状態、結晶状態では強い発光。(ΦPL=0.18, 0.38)

⟹o-カルボラン-アントラセンはAIE, CIE活性分子である。

特に結晶状態に注目。

X線構造解析の結果から、アントラセンとo-カルボランのC1-C2結合はほぼ平行にあり、これはICT準位の形成には不利である。

⟹結晶状態においてo-カルボランの回転が引き起こされ、600nm付近のICT発光を導く。

つまり、結晶状態でもTICTプロセスが起こりうる。

 

◼︎低温(77K)における溶媒中と結晶状態でのPLスペクトルを測定(Fig. 2d)

アントラセン部位からLE発光が明白な振動構造と共にみられた。

600nm付近のICT発光は観測されなかった。

⟹77kの結晶状態ではICT発光に対するLE発光の相対的強度比は室温よりも大きい。

o-カルボランの回転は凍結メディアや低温での結晶状態において抑制され、LE発光が結果的に現れた。

一方LE発光は高温にすると徐々に減少した。

⟹熱によって回転が優位となったため。

⟹これは600nm付近の発光帯がTICTスペクトルに由来することをサポート

一般的に有機化合物は励起状態で大きな幾何学変化を起こすだけの空間がないために、

結晶状態でTICT発光を発現することはできない。

しかし、o-カルボランはコンパクトな球状の形のため光励起後の回転が可能となる。

加えて、凝集によるクエンチング(ACQ)も効率的に防ぐことができる。

パッキング状態においてもTICT発光を得ることができた。

 

◼︎発光の寿命

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THF中、結晶状態でのLE発光の寿命は同様の結果であった。

結晶状態でのTICT発光はTHF中に比べて3倍長い結果となった。

⟹結晶状態では溶液中に比べて高い回転障壁があることを示唆。

 

<計算>

DFTとTD-DFTをB3LYP/6-31G8d)//B3LYP/6-31G(d)で行った。

アントラセン面とo-カルボランのC1-C2結合の角度を変えて行った時の電子特性の変化をモニター

⟹平面構造(φ=-15°)ねじれ構造(φ=-90°)に最適化された。(Figure.3)

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両方の構造でLUMOからHOMOへ誘起されるS1-S0電子遷移が主であることが明らかとなった。

(平面構造で93%、ねじれ構造で95%)

 

◼︎電子分布を調査

 両方のコンフォメーションのHOMOと平面構造のLUMOはアントラセン部位に局在化している。

 一方でねじれ構造のLUMOはo-カルボランに局在化している。

⟹平面構造とねじれ構造の発光がそれぞれLEとTICT準位からなることを支持

計算から得られた発光波長はLE、TICTに対してそれぞれ433nmと561nmであった。

⟹実験結果と一致。

φ=-15°のときC1-C2結合距離は1.67Å

φ=-90°ときC1-C2結合距離は2.37Å

 

◼︎ポテンシャルエネルギー曲線をさまざまな二面角を設定して計算。(Figure. 4)

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EGS(φ=-15°)ポテンシャルエネルギー曲線から最も安定な構造は平面構造である。

X線構造解析の結果φ=-13.6°あるとの結果とも一致。

2番目に安定な点がねじれ構造であり(φ=-90°)、1.5kcalmol-1高い

回転障壁は12kcalmol-1と算出された。

平面コンフォメーションでの励起(プロセス1)では早い振動緩和がおきる

次に2つのパスが考えられる。

・LE準位からの発光(プロセス2)

・TICT準位からの発光(プロセス3,4)

励起状態での回転障壁は8kcalmol-1であり、TICT準位への電子の移動は可能であると考えられる。

 

 

◼︎吸収(S0-S1)と蛍光(S1-S0)における振動子強度の変化を二面角の変化により算出

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S0-S1遷移における振動子強度は0.20付近で一定である。(Figure. 5a)

⟹アントラセン部位の回転は吸収特性に影響を与えないことを表している。

S1-S0遷移において、振動子強度は明らかに二面角に依存し、大きな振動子強度がねじれ構造で観測された。(Figure. 5b)

⟹ねじれ発光で強い発光がみられた実験結果と一致している。

振動子強度が全ての角度で一定であったことから、LE発光はアントラセンの配座に関係しない。

 

◼︎理論計算による固体状態における励起状態基底状態の回転エネルギー障壁の算出。

*結晶のパッキングは(QM/MM)法を利用。

*中心の分子はTD-DFT法を用いて、周辺の分子はGAFF法を利用。

結晶パッキング中、基底状態励起状態の回転エネルギー障壁は20,19kcalmol-1と算出された。

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数値が小さいことはo-カルボラン部位が球状の形のために結晶中で回転可能であることを表す。

これらのデータは結晶状態で600nm付近の発光帯がTICT発光であることを示している。

 

✢Conclusion

o-カルボラン-アントラセンは溶液中と結晶中でTICT発光を示した。量子化学計算と動的評価からo-カルボラン部位での回転はそのコンパクトな球状の形から円滑に起こることが示唆され、濃縮状態でもTICTプロセスが導かれることが示された。

◼︎2つの注目すべきポイント 

1.TICTのようなo-カルボランの新しい発光メカニズムが実験的に確認された。

2.固体状態での発光分子を提示した

 

 

 

*1:Chem. Eur. J. 2012, 18, 8347–8357

*2:Org. Lett.2016, 18, 4064–4067